第10回
吉川英治文庫賞
受賞作
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米澤穂信 「小市民」シリーズ (創元推理文庫)
対象期間内の文庫新刊
『冬期限定ボンボンショコラ事件』

米澤穂信さん
1978年、岐阜県生まれ。2001年に『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞してデビュー。11年に『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、14年に『満願』で第27回山本周五郎賞、21年『黒牢城』で第12回山田風太郎賞、翌年には同作品で第166回直木三十五賞、第22回本格ミステリ大賞小説部門を受賞。ミステリーを主軸に据えつつ、青春・ファンタジー・歴史など多様なジャンルを取り入れている。
受賞作「小市民」シリーズは、04年の『春期限定いちごタルト事件』を第一作とし、最新作は24年の『冬期限定ボンボンショコラ事件』。同年、アニメ化。
受賞のことば米澤穂信
オーストラリアの作家アントニー・マンの短篇「エスター・ゴードン・フラムリンガム」は、あらゆる時代のあらゆる職業がすでに名探偵役に取り立てられていることをユーモアたっぷりに書いている。誰も書いたことのないキャラクター設定を探すことが小説にとって意味があるのかはともかく、こんな冗談が成り立つほど、シリーズものは世界中で絶え間なく、数限りなく書き続けられている。
シリーズものは他のあらゆる文化にも増して常に新しく生まれ続け、それぞれの時代それぞれの場所で時に愛されて、愛したという思い出だけを読者の胸に残して消えていく。水のように欠かせず、水のように流れ来たり、水のように流れ去っていく、シリーズものとはそういうものだという思いがある。いつも新しいものが書かれること自体が、かけがえのない永遠性なのだと。
幸いなことに〈小市民〉シリーズは、多くの読者に愛して頂けた。傲慢なさみしさを抱えた男子とこの世は荒野だと覚悟を決めていた女子の物語を、私は、自分の力が許す限りに書き切った。彼らのお話はひととき確かに光を放った。あとは運命に従って「次」に押し出されて読者の胸にだけ残る、それで本望だと思っていた。
しかし今回吉川英治文庫賞を頂いたことで、こういう小説が書かれたことは記録にも残ることになった。私はそのことを嬉しく思っている。
ありがとうございました。
対象は2023年12月から2024年11月に、シリーズの5巻目以降が一次文庫で刊行された小説のシリーズ作品。
第10回吉川英治文庫賞最終候補作
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石田衣良 「池袋ウエストゲートパーク」シリーズ (文春文庫)
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井原忠政 「三河雑兵心得」シリーズ (双葉文庫)
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菊地秀行 「吸血鬼ハンター」シリーズ (朝日文庫ソノラマセレクション)
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知念実希人 「天久鷹央」シリーズ (実業之日本社文庫)
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米澤穂信 「小市民」シリーズ (創元推理文庫)
以上、5作品です。
2025年4月11日
公益財団法人吉川英治国民文化振興会
吉川英治文庫賞事務局