第4回
吉川英治文庫賞
受賞作

西村京太郎さん

西村京太郎さん

1930年9月6日、東京生まれ。88歳。東京陸軍幼年学校で終戦を迎えた。東京都立工業専門学校卒業後、人事院に10余年勤務。1963年に「歪んだ朝」で第2回オール讀物推理小説新人賞を受賞。1965年に『天使の傷痕』で第11回江戸川乱歩賞を受賞。1978年に鉄道ミステリー第1作となる『寝台特急殺人事件』を発表。1981年に『終着駅殺人事件』で第34回日本推理作家協会賞〈長編部門〉を受賞。2005年に第8回日本ミステリー文学大賞を受賞。2018年には著作が600冊を超えたトラベルミステリーの第一人者である。

受賞のことば西村京太郎

 正直嬉しい。年齢をとると無欲になるというのは、自分が年齢を重ねて嘘だとわかった。年齢をとると、逆に、長生きしたくなるし、世間との接触が、欲しくなるとわかってきた。
 それにしても、日本に文庫があるということは、素晴らしい。売れない作家だった私が、ある日、突然、売れる作家になったのだが、それは、文庫が売れるということだった。あの時、まるで神風が吹いた感じで、500万円の年収があっという間に、1000万円になり、1億円になり、2億円になり、5億円を越えたのである。
 今は、収入も落ち着いているが、いぜんとして、私の収入の6割は文庫である。多分、多くの作家の収入は、文庫によるものだろう。また読者にとっても、安く、その作家の本を読めるのだから、利益になる。若い読者、中・高校生の中には、文庫が出るのを待って買うという人もいるくらいなのだ。年輩の読者の中には、ハードカバー、ソフトカバーの本を集めていたが、大きな場所が必要なので、文庫で揃えて、小さな本箱に納めている人もいる。そんなことを考えると、現代では、豪華本より、文庫が主力を占めているのかも知れない。それに合わせるように、作家の中には、最初から、文庫で出版するという人が出て来ているのも、自然かも知れないのである。電子書籍もある中だが、文庫は永遠に無くなることはないだろうと思っている。

対象は、2017年12月から2018年11月に、シリーズの5巻目以降が一次文庫で刊行された小説のシリーズ作品。