第5回
吉川英治文庫賞
受賞作

小野不由美さん

大分県中津市生まれ。大谷大学文学部卒業。大学在学中に京都大学推理小説研究会に在籍し、1988年に講談社X文庫ティーンズハートから『バースデイ・イブは眠れない』で作家デビュー。1989年、「悪霊」シリーズで知られる「ゴーストハント」シリーズがヒットして人気作家となる。1991年刊行の『魔性の子』にはじまる「十二国記」シリーズは、その後『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』と続き、ファンタジー大作として多くのファンを獲得。著者の代表作となる。1993年、『東亰異聞』が日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となる。2013年、『残穢』で第26回山本周五郎賞を受賞。他の著書に、『屍鬼』『黒祠の島』『鬼談百景』『営繕かるかや怪異譚』など多数。

御礼小野不由美

 昔、噴水式ジュース自動販売機というものがありました。子供のころ、あれが不思議で、父に「どうなっているの」と聞いたことがあります。父は淡々と「あれは中に人が入っているんだ」と言いました。幼心に怪しいものを感じたのですが、「お父さんの知り合いにも中で働いている人がいる。狭いし暑いし大変らしい」という言葉で納得してしまいました。寡黙な九州男児である父は、そういう妙なホラで子供を騙すのが好きな人でした(いまもそうなのかもしれませんが、さすがにもう騙されません)。ですから、わたしがもっともらしいホラを考えるのが楽しくてたまらないのは、たぶん血筋なんだと思います。
 十二国記はそんなホラの集大成です。「もっともらしさ」は父に習いました。その結果、賞をいただくことになったので、何よりもまず、父にお礼を言いたいと思います。
 同時に、出版に御尽力くださった全ての方々に感謝いたします。特に、いつも素晴らしい絵を描いてくださる山田章博さんには格別のお礼を。山田さんの挿絵なしには現在の状況はあり得なかったと思います。また、思いを込めて販売に御尽力くださった書店の方々。首都圏では発売開始は台風が迫る中でのことでした。御苦労をおかけしたと思います。本当にありがとうございました。何よりも作品を推してくださった皆様、そして、これほど長い間、作品を待ち続けてくださった読者の方々に、心から御礼申しあげます。

対象は、2018年12月から2019年11月に、シリーズの5巻目以降が一次文庫で刊行された小説のシリーズ作品。