第9回
吉川英治文庫賞
受賞作

阿部智里さん

阿部智里さん

1991年、群馬県前橋市生まれ。早稲田大学文化構想学部在学中の2012年、『烏に単は似合わない』で20歳という史上最年少の若さで松本清張賞を受賞。2017年、早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く壮大な異世界ファンタジー「八咫烏」シリーズは、現在は第二部へと突入、外伝も含めて単行本版で12冊、文庫版で10冊を数える。松崎夏未氏によるコミカライズがWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで連載中。2024年4月からアニメ化作品としてNHK「烏は主を選ばない」が放送開始。ほかの作品に『発現』がある。

受賞のことば阿部智里

本当に評価されるべきもの

 新人賞に応募しても落選してばかりだった高校生の頃、私は開校記念式典の講演のためにやって来たOGと出会いました。文藝春秋にお勤めの編集さんだったその方は、「どうしたらプロになれるか分からない!」と縋りつく女子高生の訴えに、真剣に耳を傾けてくれました。その後、拙い原稿にもしっかり目を通し、原稿の基本ルールを一から指導し、実際に新人賞にも応募させ、他の編集さんにもご紹介頂いた結果、私はその出会いから4年後にプロデビューすることが出来たのです。
 そうやって世に出た物語が、12年の時を経てシリーズものとして評価されたということには、ただ単に作品の内容が評価されたという以上の意味があると思っております。
 原稿を書くだけならば一人でも出来ますが、それを他者にとっても価値ある商品となるまで練り上げ、継続して世に届けていくためには、本当に多くの方の協力が必要です。
 作品を読んで下さった読者の皆様、私を個人的に応援してくれた身近な人々の力があったことはもはや言うに及ばずですが、今回の受賞は、無名の16歳を「作家の卵」として扱い、プロデビュー後も継続して守り、育てようとした方々の長年の努力、その姿勢こそが何より評価されたものだと私は考えます。
 「八咫烏」シリーズを支えて下さった多くの方々を代表し、大変名誉ある賞を頂きましたことに改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。私自身は、これからも自分のすべき務めを果たして参ります。

対象は2022年12月から2023年11月に、シリーズの5巻目以降が一次文庫で刊行された小説のシリーズ作品。

第9回吉川英治文庫賞最終候補作

  • 麻見和史 「警視庁殺人分析班」シリーズ (講談社文庫)

  • 阿部智里 「八咫烏」シリーズ (文春文庫)

  • 石田衣良 「池袋ウエストゲートパーク」シリーズ (文春文庫)

  • 井原忠政 「三河雑兵心得」シリーズ (双葉文庫)

  • 菊地秀行 「吸血鬼ハンター」シリーズ (朝日文庫ソノラマセレクション)

  • 知念実希人 「天久鷹央」シリーズ (実業之日本社文庫)

以上、6作品です。

2024年4月11日
公益財団法人吉川英治国民文化振興会
吉川英治文庫賞事務局