第7回
吉川英治文庫賞
受賞作
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上田秀人 「百万石の留守居役」シリーズ (講談社文庫)
対象期間内の文庫新刊
『乱麻 百万石の留守居役(十六)』/『要訣 百万石の留守居役(十七)』
上田秀人さん
1959年大阪府生まれ。大阪歯科大学卒。歯科医院を開業するかたわら、山村正夫小説講座に通う。 1997年に小説CLUB新人賞佳作入選で作家デビュー。2001年、『竜門の衛』を文庫書下ろし作品として発表。 以降、「勘定吟味役異聞」など数々のシリーズ作品を発表、歴史知識に裏打ちされた骨太の作風で文庫時代小説をリードしていく。 中でも「奥右筆秘帳」シリーズは、『この時代小説がすごい!』(宝島社刊)で、2009年版、2014年版と2度にわたり文庫シリーズ作品第1位に輝き、第3回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞するなど、注目を集めた。 歴史小説にも意欲的に取り組み、『孤闘 立花宗茂』で第16回中山義秀文学賞を受賞。2013年まで歯科医と兼業していたが、現在は専業作家に。
文庫書下ろしの役割
上田秀人
吉川英治文庫賞をいただいたこと、まことにありがとうございます。
文庫を表彰する唯一に近いこの賞を受賞できたことは、文庫書下ろし作家としてまことに誇らしいものであります。
文庫書下ろしの世界は、先達作家諸氏によって開拓されたもので、雑誌連載を経て単行本となる従来の定型ではなく歴史は浅いのですが、完成してすぐ読者さまのもとへ届く、スピード勝負を売りにしたスタイルを取ります。読者さまが前巻の話をお忘れになる前にお届けしないと、値打ちが半減してしまう。次の文庫がすぐ出て、そして廉価で楽しめる。大衆文芸の一翼を担うにたりるものだと自負しております。
栄誉ある文庫賞を与えられたということは、これからも文庫書下ろし作家として作品を上梓し続けよと背中を叩かれたも同然。まさに身の引き締まる思いです。30年現役を夢としておりましたが、もっと目標を高くし、書き続けられる限り、物語を紡ぎます。
最後になりましたが、このシリーズを読んでくださった読者さま、扱ってくださった取次さま、書店さま、一緒に本を作ってくれた編集氏、画家の西のぼる先生、ブックデザインのフィールドワークさま、そして歯科医師から専業作家への転身を応援してくれた家族に、深甚の感謝を捧げます。ありがとうございました。
対象は2020年12月から2021年11月に、シリーズの5巻目以降が一時文庫で刊行された小説のシリーズ作品。